現在、日本において3組に1組が離婚していることは皆さんもよくご存じだと思います。2022年度の人口動態統計では、約50万5千組が婚姻し、約18万組が離婚しています。
そのうち、未成年の子供がいる夫婦の離婚は約57パーセントを占めており、最初に離婚をしたときの年齢は、男女とも35歳前後となっています。
60代になってからの相続の心配
人生において60歳という年齢は、やはり一つの区切りであるように思います。
多くの会社勤めの方は60歳で定年を迎え、その後嘱託として65歳までその会社で仕事を続けるか、いったん会社を退職し、新しい道を選ぶかの選択に迫られます。またその時には、ある程度の資産も構築しており、ご自身が亡くなった後のことを考える年齢にもなってきます。
その時に、ご自身が離婚経験なく、法定相続人(民法で定められた被相続人の財産を相続する権利を持つ人)も現在の奥様とお子様だけの場合には、それほ大きな心配をされない場合も多いかと思いますが、前述した離婚率から計算すると、約20パーセントの方が、元妻との間にお子さんがいることになります。
この場合の相続はどうなるのでしょうか。
元妻と元妻の子供の相続について
離婚をした元妻と元妻との間にできた子供の相続分はどうなるのでしょうか。
先ほど、法定相続人という言葉を出しましたが、元妻には離婚した以上、被相続人(この場合は元夫)の財産を相続する権利はありません。つまり民法上、元妻は法定相続人には当たらないということになります。
しかし、元妻との間にできた子供に関しては、いくら奥様が親権を持ったとしても、また20年以上まったく会っていないとしても、ご自身の財産を相続する権利があります。
元妻の子供の相続分について
では、現在の妻と現在の奥さんとの子供と、元妻の子供の法定相続分(民法で定められた法定相続人が有する相続割合)はどのようになるのでしょうか。
例えば、現在の奥さんとの間に2人の子供がおり、元妻との間に1人の子供がいると想定した場合の法定相続分は、現在の奥さんが全財産の1/2、現在の奥さんとの子供はそれぞれ1/6、元妻との子供は1/6となります。この場合、元妻の子供は実子(血縁関係のある子ども)であり、現在の奥さんの子供が連れ子であったとしても養子縁組しておれば、この割合は同じになります。
つまり、ご自身に家屋や土地、現預金、有価証券等で仮に6,000万円の資産があった場合には、現佐の奥さんは3,000万円、現奥さんとの子供は各々1,000万円、元妻との子供は1,000万円の法定相続分があることになります
遺産の分割について
それでは、ご自身が遺言を残すことなく死亡し、仮に4,500万円相続財産相当の土地・家屋と、1,500万円の現預金を持っていた場合、現在の奥さんと現在の奥さんとの子供のみで、その遺産を分割することができるのでしょうか。
土地・家屋の場合は、法務局にその所有者等が登記されており、現在の奥様とお子さんで勝手に相続による所有者の変更の登記をすることはできません。また、仮に1,500万円が銀行の口座にあったとしても、こちらも勝手に引き出すことはできません。
土地・家屋、現預金等の場合においても、必ず、法定相続人(この場合は、現在の奥さんと現在の奥さんとの子供、元妻の子供の4人)で、遺産分割協議(遺産を分割する話し合い)を行い、その証明となる書類(遺産分割協議書)を作成したうえで、財産の分割をしなければなりません。
その場合には、おそらくお亡くなりになったことを知った現在の奥さんや現在の奥さんの子供さんが、元妻のお子さんに連絡をして、遺産分割協議をしなければならないことになります。
元妻の子供との遺産分割の問題点
ご自身がお亡くなりになった場合、現在の奥さんやお子さんと元妻のお子さんが遺産分割の話し合いをするにはいろいろな困難な点があります。
例えば、現在の奥さんやお子さんが、元妻や元妻のお子さんのことを全く知らない。どこに住んでいるのかもわからない。何十年も前に離婚をした元妻の子供になぜ、遺産を分けないといけないのかという気持ち。遺産分割の話を冷静にできるのかどうかの不安などなど...
現在の奥様と元妻との間には交流がないことが多いことが想像されますので、どのようにして元妻の子供と連絡を取るのかや、無事に遺産分割をすることができるのかどうかの不安が付きまとうと思います。
現在の奥さんにすれば、あとで大変な思いをしないように、ご自身(配偶者)に対して、生きている間に手を打っておいて欲しいと望むことだと思います。
元妻の子供が亡くなっていた場合
仮に、元妻の子供が亡くなっていた場合には、どうなるでしょうか。
その亡くなった元妻の子供自身にお子さんがいた場合には、代襲相続されその相続分は、直系卑属の場合は制限なくその代襲相続が続きます。つまり、元妻の子供が亡くなっており、その亡くなった元妻の子供にお子さんがいた場合には、そのお子さんが相続人となります。
遺言を残すという方法
一般のサラリーマンの家庭においても、上述したような潜在的な悩みを持っている方が多いと思います。また、悩みとまでいかなくても、現在の夫には元妻の間に子供がおり、もし夫が亡くなった場合には、相続はどうなるんだろうかと思っている方もいらっしゃると思います。
「遺言」というと、とても多くの財産を持っている資産家が残すものだと思っている方もいるかと思いますが、相続というは、例え資産がマンション一室だったとしても、遺産の分割を法に則って行わなければなりませんので、誰においても考えないといけないことです。
「遺言」とは、ご自身が築き、守ってきた財産を有意義に活用してもらうための遺言者の意思表示として尊重されます。ただし、すべて必ず遺言通りに遺産分割しなければならないかというとそうでもありません。
例えば、前述したケースで亡くなった夫が現在の妻に1/2、現在の妻との子供2人に各々1/4づつ相続させる旨の遺言書を残したとしても、元妻の子供は法定相続人ですので、遺留分(最低限保証された遺産取得分)が認められます。遺留分は法定相続分の1/2ですので、前述のケースの場合、元妻の子には500万円相当の遺産を取得する権利があります。ただ、これは権利ですので、元妻の子が主張をしなければならないものとなります。また、遺留分の請求は、相続の開始を知った時から1年以内、相続開始の時から10年を経過したときに時効によって消滅します。
後々残された奥さんやお子さんが、大変な思いを少しでも避けることができるように遺言を残すということもお考えになってはいかがでしょうか。
遺言を残す場合の一つの方法
上述したように、ご自身が亡くなった際に、現在の奥さんや現在の奥さんとの子供に多くの財産を残したいというう場合には、現在の奥さんとその子供だけに財産を相続させる遺言書を残すのも一つの方法だと思います。
ただし、元妻との間にできたお子さんには、遺留分を請求する権利がありますので、その旨を現在の奥さんやお子さんに話し、対応できるようにしておく必要があるでしょう。
では、その際にどのように遺言書を作成するのがよいのでしょうか。
遺言の種類
遺言には3つの種類があります。
①公正証書遺言
②自筆証書遺言
③秘密証書遺言
各々の遺言にはその作成のルールがあり、ルール通り遺言書が作成されないと、遺言の効力が認められません。また、現在では①公正証書遺言、②自筆証書遺言の2つが良く使われています。
公正証書遺言のメリットとデメリット
公正証書遺言は、公証役場で公証人と証人2名の立ち合いのもとで遺言書を作成します。公正証書遺言では公証役場に遺言書の原本が保管され、家庭裁判所での検認手続※は不要です。
※検認手続きとは…「検認」とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。(裁判所HPより)
【公正証書遺言のメリット】
・公証人が作成するので、形式不備により無効になる可能性が低い
・公証役場が保管するので偽造や書き換え、紛失の可能性がない
【公正証書遺言のデメリット】
・証人2名が必要(証人の手数料がかかる場合もある)
・公証役場への手数料がかかる
・公証人と遺言案を打ち合わせたり、戸籍を集めたり、財産を裏付ける資料を取り寄せるなどの準備に手間がかかる
自筆証書遺言のメリットとデメリット
自筆証書遺言は、本文の全文・日付・氏名を自筆で書いた書面に捺印するものです。
昔のドラマや映画などで、亡くなった大金持ちのおじいさんの遺言書が机の奥から出てきて騒動が起こる(笑)といったあれです。
【自筆証書遺言のメリット】
・手軽に作成できて、書き直しも容易にできる
・費用がほとんどかからない
・遺言の内容を自分以外に秘密にすることができる
【自筆公正証書のデメリット】
・形式が要件を満たしていないと、遺言が無効になるリスクがある
・紛失したり、遺言者の死後に忘れ去られたりするリスクがある
・遺言書が勝手に書き換えられたり、隠されたりするリスクがある
・相続人が勝手に開封してはならず、「検認」を受けなければならない
自筆証書遺言の場合、メリットはとても良いのですが、デメリットが大きすぎて躊躇されるケースが今までありましたが、令和2年7月からこのデメリットをカバーできる「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。
自筆証書遺言書保管制度とは
自筆証書遺言保管制度は、相続をめぐる紛争を防止する観点から、自筆証書遺言を法務局が預かり、その原本やデータを長期間適正に管理してくれます。また、保管の際には、法務局の職員が民法の定める方式について外形的な確認を行います。
自筆証書遺言保管制度では、裁判所の検認が不要であり、死亡時の通知制度や関係遺言者保管通知などの制度もあります。また、保管手数料も3,900円と高額ではなく、内容の確認や変更、預けた遺言書の返還も可能です。
自筆証書遺言についてホームページや書籍などで調べられた方もあるかと思いますが、制度ができてから比較的新しく、自筆証書遺言保管制度について記されていないのが現状です。
離婚されて元妻との間に子供がいる方へ
これまで、記載してきたように、離婚をされて再婚したが、元妻との間にお子さんがいるケースなどは、ご自身が亡くなったあとのことを考えて、遺産をどのようにするのかを考え、手を打っておくことが残されたご家族にとって大切だと思います。
今回は、現在の奥さんや現在の奥さんとの間の子供さんに財産を残すというケースについて記載しましたが、反対に、元妻の子供に多くの財産を残したいというようなケースもあるでしょう。ただ、年齢的に60歳を越えたあたりから終活を考えておかれた方が、残されたご家族やお子さんにとって大切だと思います。
⇒相続や遺言書作成に関するご相談は、加賀田行政書士事務所まで。